植え込み型の補助人工心臓

植え込み型の補助人工心臓

2023年05月11日公開

心臓移植を希望しなくても装着可能に

 重症(末期)心不全に対する究極の治療は心臓移植です。日本では臓器提供者が極端に不足しているため、移植までの待機期間が3~4年と長期になることが問題となっています。そのため、心臓移植まで「植え込み型補助人工心臓」を装着して待機期間を過ごす「ブリッジ治療」が発展しています。

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 植え込み型補助人工心臓を装着すると退院可能で、社会復帰して外来通院しつつ心臓移植を待つことができます。1年後の生存率は90%と良好ですが、保険診療としてこの治療を受けるには心臓移植登録が必要です。臓器提供者が不足している日本においては、さらなる心臓移植登録患者の増加が移植待機期間の延長の原因となっています。

 心臓移植登録申請は65歳未満であることが望ましく、透析や糖尿病、がんなど長生きできないと予想される患者には認められません。高齢化社会の日本では、65歳以上でも心臓以外は元気な方が数多く生活していますが、重症心不全の患者は年齢を理由にこの素晴らしい治療を受けられません。

 移植申請が間に合わない患者は、従来の「体外型補助人工心臓」を装着せざるを得ず、それによる合併症や入院期間の延長といった問題も生じています。

 一方、欧米では移植を前提としない最終(永久)的な補助人工心臓治療(DT)が行われており、米国では2012年時点で年間千例近い重症心不全患者の治療として使われています。米国の場合、この補助人工心臓患者の26%が65歳以上で、5%が75歳以上と報告されています。そして、このDTの妥当性は内科治療に比して有意な生命予後改善効果があることが、多くの研究により証明されています。

 移植を前提としないDTをわが国でも適正に施行するため、約8年にわたって議論され、21年に認可されました。認可後の1年間での症例数は25で良好な成績を残しているため、今後もこの治療が広がると予想されます。沖縄県においても、高齢重症心不全患者に寄与すると期待されます。

稲福斉 琉球大学胸部心臓血管外科学講座(西原町)

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