ACP 人生最後に贈るプレゼント

ACP 人生最後に贈るプレゼント

2025年09月10日 公開

 「母にとってあの決断が良かったのか、今でも悩んでいます」。脳梗塞発症後、意識状態が悪くなり口から食事を取ることが難しくなった母親に対して、迷った末に胃ろう造設を決めた娘さんが、涙ながらに語った言葉です。

 訪問診療を利用される方は、疾患や高齢の影響で、ご本人が意思をうまく伝えられないことが少なくありません。そのため、ご本人を最もよく知る方(多くはご家族)に「代理意思決定者」となっていただきます。その役割は、ご本人だったらどう考えるかという「推定意思」を代弁することです。ここで大切なのは、家族など周囲の希望ではなく、あくまでご本人の意思を尊重することです。「どんな方でしたか?」「何を大切にされていましたか?」と、われわれ、医療者はご本人の価値観がわかるエピソードを丁寧に伺います。もちろん初対面ですべて理解はできませんが、できる限りご本人の価値観に基づいた最善の方針を導き出せるよう、時間をかけて話し合います。

 代理意思決定者の反応は大きく二つに分かれます。一つは「母(父)は、いざという時、○○だけはしてほしくないとはっきり話していました」と本人の価値観を明確に伝えてくださる場合です。しかし、これは少数派です。多くの方はもう一つの反応で「いざというときの話はしたことがないので、わかりません」と戸惑われます。

 無理もありません。地域差はありますが、日本では最期の話題を避ける文化が根強く、家族間でも話し合いが難しいからです。読者の皆さんはどうでしょうか。「何から話せばいいかわからない」と感じるのは自然なことです。

 将来の医療やケアについて本人を主体に家族や医療・ケアチームが話し合い、意思決定を支援する取り組みをアドバンス・ケア・プランニング「ACP」と言います。「人生の最期をどう迎えたいか」をいきなり話し合う必要はありません。まずは「自分が今をどう生きたいのか」を大切な人とぜひ話し合ってみてください。そのことが、自分らしく生きるためだけでなく、残された家族への大切な贈り物にもなるはずです。

田木聡一 ファミリークリニックきたなかぐすく 総合診療医(北中城村)

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