肥満症とスティグマ 心理的、医療的治療が必要

肥満症とスティグマ 心理的、医療的治療が必要

2025年06月11日 公開

 肥満症は、高血圧や糖尿病などさまざまな生活習慣病の原因となり、減量によってそのリスクを軽減できるとされています。しかし、世界的に肥満の割合は増加の一途をたどり、これには食生活の変化や貧困、夜間勤務や睡眠不足など、個人の努力だけでは防ぎきれない要因も複雑に絡んでいます。

 また、一度太ると減量しにくい理由として「セットポイント理論」が注目されています。脳が“太った体重”を基準と認識し、体重が減ると飢餓状態と判断して食欲を増加させたり、代謝を低下させたりするのです。そのため、一時的な減量は可能でも維持が難しく、努力だけではコントロールが難しい側面があります。それにもかかわらず、肥満症の人々は「怠け者」「努力不足」「自己管理ができない」といった誤った認識のもとで批判を受けることが少なくありません。

 スティグマという言葉をご存じでしょうか。もともとギリシャ語で「傷」や「烙印(らくいん)」を意味し、かつて罪人や奴隷に刻まれた印を指しました。現代では、社会の中で特定の人々が偏見や差別を受けることを指し、まさに肥満症患者に対する不当な批判もスティグマと呼ばれています。

 不摂生とされる高血圧や糖尿病、喫煙や運動不足は外見上判断しにくい一方、肥満症は見た目で判断されやすいため、本人を一層苦しめる要因となります。さらに、セットポイント理論を踏まえると、そもそも太らないことが最善策ですが、学童期から肥満児に積極的に介入する方法は、本人の自己肯定感を損ねかねません。適切な配慮のもと、慎重な対応が求められます。

 肥満症は単なる甘えや怠けではなく、遺伝やホルモンの影響、環境要因などが絡み合う複雑な疾患です。そのため、食事や運動だけでなく、心理的なサポートや医療的アプローチを組み合わせた包括的な治療が必要です。社会全体で理解と支援を広げ、外見による批判やレッテル貼りを防ぐことこそが、肥満症の負の連鎖を断ち切る第一歩なのです。

村井俊介 県立八重山病院 内科(石垣市)

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