沖縄県医師会 メディネット大樹おきなわ。
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■リレー随筆

キス・スキ!

国立病院機構沖縄病院 宮 城   茂


うっすらと明るくなりかけた広い海辺に独り立ち、大きく息を吸いこんで、思いきって竿をスリークォーターから振り下ろす。道糸がシューッと音をたててのびてゆく。飛距離よし、方向よし、体調もよし。クーラーボックス一杯のキスを想像しながら、釣りの1日の始まりである。周りは人1人見えず、静かな波の音を聞きながら、自分が最初に吸いこむのであろう大海原からの新鮮な空気を胸いっぱい吸いこみ、五臓六腑の奧まで送りこむ。気分壮快になる。

投げ釣りの良さを格好つけて文芸風に書くとこの様なことであろうか。ものぐさで、出無精な小生が細々ながら今まで続けてきた趣味といえば、釣りしかも気軽に出かけられる海辺からの投げ釣りぐらいである。キスが釣れれば最高であるが、釣れる魚はなんでも良く、いわゆる五目釣りを時々楽しんでいる。

日本で釣れるキスはシロギス、アオギス、モトギス、ホシギスの4種類で、沖縄地方で釣れるのは、ホシギス、モトギスの2種類、いずれも方言ではウジュルと言っている。いずれも色白で眉目麗しく、大きめの瞳をぱっちりあけて見つめる姿は何とも愛らしい。ホシギスは死んでしまうと体に褐色の斑点が出て来るので区別できる。身は淡泊で癖が無く、フライ、テンプラ、吸い物などで大変美味である。体の大きさの割に引きが強く、その引きの強さと味の良さでキス釣りのファンは多い。「小さな大物」、「浜の貴婦人」とも言われる所以である。殆ど年中釣れるが、春先や秋口が釣果は良い。

本島内のキスの釣り場としては、羽地内海、塩屋湾、天願川周辺、海中道路周辺、石川ビーチ、漢那ビーチ周辺、糸満西崎などが知られている。埋め立てられる以前の与那原海岸には特に足繁く通ったものである。与那原海岸は車で30分もかからない近場ではあるが、周りは民家で囲まれ、所々に生活排水が流れこんでいたり、夏には海水浴の興じる子供達や、沖で若者がウィンドサーフィンを楽しんでいたりと釣りの環境として決して良くは無かったが、良く釣れた。数年前からは広大な埋め立て工事が始まり、宅地造成などの工事がまだ続いており、残念である。将来、埋め立て地の先に以前のような砂浜の海岸が戻ってくるのであろうか。

キスの当たりや引きを楽しむ為には出来るだけ細目の長さが4m前後の竿を用意し、道糸は2〜3号、天秤錘と、8〜10号の3〜5本針の市販の仕掛けを使っている。エサは島ミミズが最適ではあるが、なかなか手に入らない為ゴカイを使う事が多い。

竿は置き竿用と、引き釣り用の持ち竿の2本用意する。大物は置き竿で、数釣りなら引き釣りがよいと言われており、少しでも数釣りをと欲張ってのことである。しかし竿の数と釣果とは必ずしも比例しないし、2本の竿を扱うのは多少無理がある。引き釣りをしながらも置き竿の方が気になるし、置き竿に当たりがあると、手許の竿を放りだして置き竿に走る羽目となり気忙しい。また、キスは足で釣れとも言われる様に、当たりが無くなったら場所を移動しながら釣るのがよいが、置き竿や大きなクーラーボックスなどがあると、移動の支度が煩わしくなってしまい、居座る事が多くなる。結局実際には一本の竿を使う事が多い。キスは数匹〜十数匹の群れで砂地や石ころ混じりの海底のかけ上がりの近くを泳いでいる事が多いが、海面からは全く分からない。引き釣りをしながら海底の状態が分かる事があるが、最も効率が良いのは、当たりのあったポイントを覚えておき、そのポイントから少し先にキャスティングして、当たりのあった場所まで静かに引いてくる事である。狙った場所にキャスティングするにはかなりの練習を必要とする。遠投して釣れない場合に以外と波打ち際のすぐ先の、深さが数10cmもない波の泡立っている所で良く釣れたりもする。そこはエサが捲き上がって、小魚達の格好の餌場となっている。一生懸命遠投しているがなかなか釣れない側で、子供達がちゃちな竿をポイ投げして次から次と釣り上げて、ニコッと顔をこちらに向けられ、たまらない気持にさせられる事も往々にある。

キスの当たりは体の大きさからは想像できない強さで波打際まで暴れ楽しませてくれる。糸を人のゆっくり歩く速さで巻いていると、突然「グググーッ」と引き込む様なはっきりとした当たりがきて、数秒おいてまた同じ当たりが数回くる。合わせのタイミング、強さにより途中で外れたり、針をまるごと呑みこまれたりする。波間からスタイルのよい白い魚体が見えてくると、思わず「おーっ、キスだ、やった!」と嬉しさの余りに声がでそうになるが、こちらの期待とは違い、波間から丸い体や褐色の肌、角張った体形がみえてくると、つい溜め息がでる。キス以外は外道だと言われたら釣られた魚達が怒ってしまうかも知れないが、フグやヤマトビー(ニセクロホシダイ)、ガクガク(ホシイソミサギ)、ユダヤーガーラ(ヒイラギ)などがよく釣れてくる。

今まで釣った最大のキスは塩屋湾での32cm、最小のものは4〜5cm。見た目にも可哀相な程小さなキスや外道は出来るだけリリースしてあげたいが、えてして針をまるごと呑みこんでいたり、丈夫な歯でガッチリと針を咬んで、折角口に入れた餌を放すものかと頑張られたりすると、やっと針を外しても魚が弱ってしまい、息も絶え絶えになっている事が多い。そのまま海に帰しても、とても生きて行けそうもないし、ましてや海岸辺りに棄てるのは、釣った魚に申し訳ないとも思われ、そのまま持ち帰り何とか料理してもらう事にしている。出来れば格好よくリリースできる様に、針が口先にチョンがけの状態で釣るのがベターだが、腕がまだその域に達していない。

仕事柄、予め計画を立てて釣りに出かける事は少なく、思いたった時に独りで出かける事が多い。友だち同志で出かける釣りも楽しいが、お互いの釣果に差がでたりすると余計な気を使ってみたり、帰る時間もままならない場合があり、どちらかというと独りでの釣りが自由気儘でよい。

今日は天気の良い日曜日だ。病院からの呼びだしも無さそうだし、久し振りに釣りにでも出かけてみよう。着古した作業服に着替え、そそくさと出かける支度をしていると、後の方から「そんなみっともない格好してでかけるの? キスを釣ってきてネ! 期待しないで待っているワ」と声が聞こえてくる。「なにを言ってやがる!服装の良し悪しでキスが釣れるものか! 大鍋に油でも温めて待っていやがれ!」と心の中で呟いて、ソーッと玄関の扉を開ける。

★リレー状況
 −平成14年以前掲載省略−
 32.川平稔先生(コザクリニック)Vol. 39 No. 1
 33.長嶺文雄先生(湘南病院)Vol. 39 No. 4
 34.松岡政紀先生(北部病院)Vol. 39 No. 7
 35.小橋川悟先生(読谷村診療所)Vol. 39 No. 10
 36.鳥谷裕先生(ライフケアクリニック読谷)Vol. 39 No. 12
 37.玉井修先生(曙クリニック)Vol. 40 No. 3
 38.田川辰也先生(琉球大学大学院医学研究科 薬物作用制御学分野)Vol. 40 No. 4
 39.藤本奈央子先生(医療法人清心会徳山クリニック内科)Vol. 40 No. 6
 40.戸澤雅彦先生(安立医院)Vol. 40 No. 9
 41.大湾勤子先生(独立行政法人 国立病院機構沖縄病院)Vol. 40 No. 11


 

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