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■プライマリ・ケアコーナー

上腹部消化器不定愁訴で悩んでいる患者さんのために
―機能性胃腸症の考え方―

愛知医科大学看護学部病態治療学 金 子   宏

慢性の上腹部消化器不定愁訴で受診する患者の最終診断として胃潰瘍、胆石などの器質的疾患の頻度は必ずしも高くはなく、半数以上は機能性の疾患である。本邦では従来から慢性の上腹部不定愁訴に対しては、慢性胃炎、神経性胃炎、あるいはそのまま上腹部不定愁訴症と診断し、「慢性胃炎」という保険病名のもと粘膜保護剤や健胃消化剤を投与するのが一般的であった。欧米では1980年代後半からこの目に見えない病態を「慢性胃炎」ではなく「non-ulcer dyspepsia(NUD)」と呼称し、その重要性が提唱されるようになった。本邦でも、NUDの概念が次第に取り入れられるようになり、欧米で使用される「ディスペプシア(dyspepsia)」の理解が必要となってきた。ディスペプシアとは「胃のあたりの痛み、不快感」などを含む様々な上腹部不定愁訴に相当する概念であり、プライマリケアの場で最もよく聞かれる愁訴の一つである。

本邦の「慢性胃炎」の概念は混乱している。すなわち、内視鏡検査などで粘膜の異常がみられる「肉眼的(形態学的)胃炎」、ピロリ菌感染による胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられる「組織学的胃炎」、さらに胃痛、胃もたれなどの症状をさす「症候性胃炎」、すなわちNUDである。包括医療(DPC)の流れのなかでこのように異なった病態の集合体である「慢性胃炎」を整理し直す動きが加速している。

最近、NUDは消化管の機能異常である点を重視して機能性ディスペプシア(functional dyspepsia)、あるいは「機能性胃腸症」と呼ばれるようになってきた。機能性胃腸症の病態には消化管運動異常と消化管知覚過敏という機能異常が関与していることが明らかである。また、その機能異常を脳で不快な経験として知覚(認知)し、その反応がさらに消化管機能異常を悪化、慢性化するという脳−腸相関(悪循環)の関与が注目されている。心配性とか社会的なストレス、すなわち心理社会的な影響が症状を修飾することになる。すなわち、胃という臓器ではなく、訴えをもつ患者全体への理解、援助、治療が必要な病態ともいえる。

一般的な治療方略としては「機能的な病気もあること」を十分説明することと消化管運動改善薬(ガスモチンィなど)の投与が第一段階である。2〜4週間しても改善がみられない場合は内視鏡を含む精密検査が勧められる。また、H2ブロッカーを試す価値もある。症例によっては、慢性膵炎(疑診群)に準じた薬剤、あるいは漢方薬を使用して改善する症例もみられる。難治性の場合も少なからずみられ、その場合は使い慣れた抗うつ薬等を4週間程度使用して反応をみることが実践的であろう。

元来、NUDの中には「むねやけ」を主体とする「逆流型」が存在したが、現在ではそれは胃食道逆流症(GERD)として独立した疾患単位として取り扱われている。しかし、本邦に多いGrade O(内視鏡陰性GERD)では、酸分泌抑制剤(PPIなど)が無効な例が少なからずみられる。実際、内視鏡陰性GERDでは胃排出能が低下していること、PPI抵抗性のGERDに消化管運動改善薬が有効であるという報告も見られる。従って、「むねやけ」症状がPPIによって改善しない場合は、機能性胃腸症に準じた治療をすることも合理的であると考える。

日本医師会生涯教育講座「朝日医学医療セミナー」の座長を担当して

琉球大学医学部附属病院
光学医療診療部助教授 金 城 福 則

この度、愛知医科大学看護学部病態治療学教授であられる金子宏先生のご講演「上腹部消化器不定愁訴で悩んでいる患者さんのために−機能性胃腸症の考え方」の座長を仰せつかった。本セミナーのテーマは「実地医家における適切な診断と合理的な治療法」となっていた。講師の金子先生は昭和58年に名古屋大学医学部をご卒業なされた大変お若い教授ですが、ご講演は一般臨床医にも理解し易い大変素晴らしい内容でした。一般に若い医師は器質的疾患に興味を持ちがちであるが、一般臨床の場においては機能性疾患に遭遇することが多く、その対応に苦慮する。

わが国における保険病名の「慢性胃炎」の多くは「機能性胃腸症 functional dyspepsia」として取り扱うことが適切と思われる。金子先生は内視鏡診断学など器質的疾患を対象としたお仕事から始まり、現在では心身医学・心療内科をご専門とするユニークなご経歴の持ち主である。豊富な臨床経験と文献的考察より、「機能性胃腸症」について具体的に順序だて、(1)dyspepsiaとは、から始まり、(2)慢性胃炎について、(3)functional dyspepsiaについて、(4)消化管運動異常について、(5)心理的社会的影響について、(6)プライマリー・ケアでのコツについて、参加者にわかり易くご講演して下さった。

その御講演の一部を今日、県医師会報へ御寄稿賜ったのであるが、一般会員が日常診療にご参考になることは多いものと思いますので、是非、ご一読下さい。


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