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■生涯教育

透析中に生じた急性硬膜下血腫の一例

沖縄協同病院 脳神経外科
  藪 内 伴 成、  伊 泊 広 二、  新 垣 安 男
同病院 内科 
  斉 藤   保


【要旨】
慢性透析患者に合併する頭蓋内出血性疾患は日常臨床の場でも比較的頻度が高く、経過や予後は非常に悪いとされる。一方で明らかな外傷がなく発症する特発性急性硬膜下血腫は処置が早ければ比較的予後が良好な疾患である。

今回我々の経験した症例は66歳、男性。維持透析開始後11年経過していた。近医で透析中に突然の頭痛、嘔吐、意識レベルの低下が認められ、頭部CTでは左側頭部に急性硬膜下血腫が認められた。切迫脳ヘルニアを来していた為、緊急に開頭血腫除去術を行った。術中所見として血腫は新鮮な血腫で、明らかな出血点は認められず、脳挫傷もなかった。今回の透析前に頭部外傷の既往もなく、明らかな出血原因もないために特発性急性硬膜下血腫と診断した。術後経過は良好で、術後21日目に独歩退院となった。

外傷に伴う透析患者の急性硬膜下血腫の報告は多いが、外傷の既往がない患者で透析施行中に突然発症した症例は報告が少なく稀に思われた。透析患者の頭蓋内出血性疾患、特発性急性硬膜下血腫の臨床学的特徴について文献的考察を加えて報告した。


【はじめに】慢性透析患者に合併する頭蓋内出血性疾患は日常臨床の場でも頻度が高く、経過や予後は非常に悪いとされる。沖縄県下における透析患者の脳卒中の発症相対危険度は非透析患者と比較して脳卒中全体で5.2倍、脳出血においては10.7倍と非常に高いものであった1)2)。

一方で明らかな外傷がなく発症する特発性急性硬膜下血腫は処置が早ければ比較的予後良好な疾患である。近年高齢化に伴いこのような疾患は増加傾向にある3)。

今回我々は明らかな頭部外傷の既往がなく、透析施行中に特発性急性硬膜下血腫を来した症例を経験した。本症例をふまえて透析患者の頭蓋内出血性疾患、特発性急性硬膜下血腫の臨床学的特徴について報告する。

【患者】66歳、男性

【主訴】頭痛、嘔吐、意識障害

【既往歴】12年前より高血圧を指摘され降圧薬内服中。11年前に糸球体腎炎による慢性腎不全にて透析導入。以降、週3回の維持透析を行っていた。2年前に冠動脈狭窄症に対してCABGを施行された。1年前にラクナ梗塞を発症し、以後アスピリン(81mg/day)内服を行っていた。

【現病歴】明らかな転倒、頭部外傷歴はない。平常通り近医で透析中(抗凝固剤は開始前、穿針部に皮下出血斑を認めたために低分子ヘパリンを300単位/hrで使用されていた。) であったが、透析開始後3時間経過した時点で特に誘因なく突然の頭痛、嘔吐を認めた(11時40分)。以後、軽度の意識障害も出現し、透析中止となった。直ちに施行された頭部CTでは硬膜下血腫が認められたため(12時00分)、加療目的で当院に紹介、緊急搬送となる(13時00分)。

【到着時現症】血圧160/90mmHg、脈72回/min、呼吸32回/min。意識レベルは前医から徐々に低下しており、Glasgow Coma Scale 13点(E3/V4/M6)で、傾眠傾向。明らかな四肢麻痺は認めなかった。瞳孔径はR/L:4mm/4mm、対光反射も両側とも保たれていた。

【画像所見】頭部CTでは左側頭部に厚さ約2cmのhigh density(高吸収)な急性硬膜下血腫が認められ、血腫による正中偏位は1.5cmであった(図1)。同時に病側の脳底槽は圧迫され、狭小化していた。

図1) 頭部CTでは左側頭部に厚さ約2cmのhigh density(高吸収)な急性硬膜下血腫が認められ、血腫による正中偏位は1.5cmであった。同時に病側の脳底槽は圧迫され、狭小化していた。

【入院時検査所見】血液一般ではHb 12.0g/dl、Ht 35.9%と若干の貧血が認められたが白血球 6000/μl、血小板数 15万/μlと正常値であった。凝固能もPT 97%、PT-INR 1.02、APTT 34.8secと異常所見は認められなかった。生化学検査ではBUN 36.6mg/dl、Cr 8.00mg/dlと腎不全に伴う上昇があったがその他電解質などは正常範囲であった。CRPも正常であった。

図2) 緊張した硬膜を切開すると凝血した暗赤色の新鮮な血腫が認められた。
【手術所見】全身麻酔下にて右前頭側頭開頭による開頭血腫除去術を行った。頭皮に打撲痕や皮下出血などはなく、頭蓋骨骨折の所見も認められなかった。緊張した硬膜を切開すると凝血した暗赤色の新鮮な血腫が認められた(図2)。慢性硬膜下血腫で見られるような血腫被膜はなかった。血腫除去後、脳表には脳挫傷やくも膜下出血は認められず、シルビウス裂前後の脳表の皮質動脈にも損傷はなかった。また脳動脈瘤、脳動静脈奇形や腫瘍性病変も認められなかった。脳浮腫はそれほど強くなかったため、頭蓋骨をもどし終了した。

【術後経過】術後覚醒は良好で、術後の頭部CTでは血腫はほぼ除去され、正中変位も改善していた(図3)。血液浄化療法は再出血がないこと、脳腫脹が軽度であることを確認の上、術後2日目より血液濾過(HF)より開始した(抗凝固剤としてはメシル酸ナファモスタットを使用した)。術後5日目に濾過透析(HDF)開始。術後7日目から週3回の血液透析(HD)を行った。術後のMRIでも脳挫傷や腫瘍性病変などの出血部位、原因は明らかではなかった(図4)。MRAでも明らかな異常所見は認められず(図5)、MRVも正常所見であった。明らかな出血原因はなく、頭部外傷の既往もないために特発性急性硬膜下血腫と診断した。術後経過は良好で、神経学的欠落症状なく術後21日で独歩退院となった。

(図3) 術後の頭部CTでは血腫はほぼ除去され、正中変位も改善している。



 

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