沖縄県医師会 メディネット大樹おきなわ。
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■生涯教育

症候性perineurial(Tarlov)
cystの手術例

県立那覇病院 脳神経外科
豊見山 直樹、下 地 武 義

【要旨】

Perineurial (Tarlov) cystは、脊髄後根またはその神経節に発生するcystでperineuriumとendoneuriumの間に形成され、くも膜下腔との交通は基本的にはないとされる。仙骨部に好発し、ほとんどは無症候であるが、稀に進行性の腰仙骨部痛、会陰部及び下肢痛等、膀胱直腸障害、下肢運動機能障害の原因となることがある。これらの症状は、cystの増大に伴うradiculopathyにより惹起される。発生機序は、虚血、外傷、炎症、脳脊髄液圧等の関与が考えられているが、未だ明らかでなく、治療方針もコンセンサスの得られたものはない。今回我々は、6年の経過で症状の緩徐な増悪をきたした症候性perineurial cystの症例を経験した。手術によるcyst壁の切除と髄液漏防止を図り、著効が得られた。我々の得られた所見とそれに基づく治療について、文献的考察を加えて報告する。


はじめに

進行性の腰仙骨部痛、下肢痛の原因となる症候性の仙骨部perineurial(Tarlov)cystは、日常診療上遭遇することは稀な疾患である。しかし、Paulsenらの連続500例の腰仙部MRIの解析では、23例(4.6%)に存在が認められ8)、そのほとんどは無症候性であるものの疾患自体は決して稀なものとはいえない。

今回我々は、6年の経過で症状の増悪をきたした症候性perineurial cystの症例を経験したので報告する。

症例

患者:24歳、女性
主訴:尾骨部から左大腿後面の痛み
家族歴・既往歴:特記すべきことはなし。
現病歴:18歳の頃から尾骨部痛から始まり会陰部痛、左臀部痛と次第に範囲が拡大、圧痛も伴い痛みの強さが増強してきた。このため両側の臀部をつけて椅子に座ることや仰臥位で寝ることができなくなった。その後歩行時に左大腿後面の電撃痛が出現するようになり、近医受診し、仙骨部くも膜嚢胞の診断を受けた。2001年6月1日、精査治療を希望して当科初診となった。

神経学的所見:尾骨部痛、肛門・会陰部痛と同部位の知覚脱失があり、それに伴う性交不快も訴えていた。左臀部から大腿部後面にかけて体動時及び歩行時に増強する電撃痛と圧痛があり同部の知覚低下が認められた。痛みによる制限はあるものの、運動機能に明らかな左右差はなく、膀胱直腸障害も認められなかった。S4レベルを中心に左S2領域にかけて広がる根性痛と知覚障害が主体の症状であった。

神経放射線学的所見: 腰仙椎単純写、3D-CTでS2レベルを中心とした仙骨のerosionを伴った脊柱管の拡大が認められた。CT axial sliceでは左側に偏位した脊柱管拡大であることが分った(Fig.1)。MRIでは馬尾を内在するterminal thecal sac 外で、その左後方にcystが存在し、T1、T2ともに脳脊髄液(CSF)と同等のintensityの内容で緊満していた。これによりterminal thecal sacは右腹側に圧排されていた(Fig.2)。

これらの臨床経過、画像所見からS4 rootから発症したsacral cystであり、その増大に伴い、周囲の神経根の圧迫をきたして、症状が増悪したことが推察された。Perineurial cyst あるいはroot diverticulumの診断で2001年8月20日手術を行った。

手術所見:全身麻酔下に腹臥位で手術を行った。手術に際し、両側の腓腹筋と外側肛門括約筋に針電極を挿入し誘発筋電図を術中モニターした。後方正中切開で、L4からS3のlaminoplastic laminectomyを行い、左の偏在するcystとそれにより右腹側に圧排されたthecal sacを確認した。Cyst後壁を開くとCSF様の透明の液体が流出し、内部に中央部でcyst壁から離れて走行する索状物が認められた。この刺激により左肛門括約筋から筋電図が得られ、S4 rootと判断した。Cystの腹側吻側の脊柱管前壁に圧排される神経根の刺激で左腓腹筋からの筋電図を得てS2と判断した。その後terminal thecal sacを開き、内包される馬尾神経を確認した(Fig.3A)。Thecal sac側から圧をかけて生理食塩水の注入を行ったが、開窓したcyst内からの流出はなく、cystとくも膜下腔との明らかな交通性は認められなかった。Cyst壁を可及的にrootから剥離して全周性に切除した。壁の断端中枢側は、皮下から採取した脂肪片とfibrin glueを用いて密封をはかり、遅発性の髄液漏を予防するようにした(Fig.3B)。

FIG.1 術前レントゲン画像:A;XP側面像, B;3D-CT,C;axial CT:S2のレベルを中心に左に偏位した仙骨前縁のerosionがみられる. FIG3 A;術野写真:虚脱したcyst(矢印小)と開窓したterminal thecal sac内の馬尾(矢印大).B;Schema of operation:cyst wallを全周性に神経根から剥離して切除、中枢側断端を脂肪とfibringlueで密封した.
FIG.1
術前レントゲン画像:A;XP側面像, B;3D-CT,C;axial
CT:S2のレベルを中心に左に偏位した仙骨前縁のerosionがみられる.
FIG.2 術前MRI:A; sagittal T1WI, B; sagittal T2WI,C;axial T2WI:cystは脳脊髄液とほぼ同様の intensityで緊満し(矢印)、馬尾を内包するthecal sac(矢頭)は右腹側に偏位.
FIG.2
術前MRI:A; sagittal T1WI, B; sagittal T2WI,C;axial T2WI:cystは脳脊髄液とほぼ同様の intensityで緊満し(矢印)、馬尾を内包するthecal sac(矢頭)は右腹側に偏位.
FIG3
A;術野写真:虚脱したcyst(矢印小)と開窓したterminal thecal sac内の馬尾(矢印大).B;Schema of operation:cyst wallを全周性に神経根から剥離して切除、中枢側断端を脂肪とfibringlueで密封した.


 

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