小児の頭部外傷

◆新茶(四月)

やめよう頭の前後振り

 私は脳神経外科を専門にしていますが、サブスペシャリティーとしての小児脳神経外科を長年やってきました。 二十二年前にアメリカのシカゴでこの学問に魅了されて以来、小児の頭部外傷の分野でも臨床研究を重ねてきました。 われわれ小児脳神経外科医の最大の関心事は患児の知能であるのは言うまでもありません。 この点で一般の方々、特に子供をお持ちのご夫婦の皆さまに知っていただきたいことを中心に述べてみたいと思います。
 頭部外傷は子供の出生時からあり、高齢で初産の場合、まれですが、産道を通ってくる際に頭蓋内にねじれが生じ出血することがあります。 緊急手術によって障害を残さず完治しますが、もちろん、治療が遅れると、知能に悪影響を及ぼすことになります。
 さて、一カ月から一歳までの乳児の頭部外傷の主なものは、硬膜下水腫ないし血腫で、これには急性と慢性があります。 このうち急性期のものは、外傷の機転が多くの場合あまりにも小さく、驚かされます。 すなわち、畳の上で後方にゴロッと倒れた後であったり、大人が泣く子をあやそうと抱えあげて「良い子、良い子」と前後に子供を振った後(図参照)であったりと、われわれが日常よく見掛ける振るまいの後に起こります。 このような外傷(といえるかどうかですが)の後に、ひきつけ(けいれん発作)を起こし、顔面蒼白となります。
 この治療は難渋します。どんなに早くわれわれ専門家が治療しても、多くの場合は知能に問題が残ります。 したがってこの病態を起こさないようにしてほしいものです。少なくとも、大人が泣く子をあやそうとして、前後に振り上げることだけはしてほしくないものです。
 慢性期のものは、外傷の機転が不明の場合が多いのです。 これは、頭囲がどんどん大きくなるのと同時に、座ったり、物を握ったりする発育が徐々に遅れてくることで分かります。 その意味で、小児の定期検診は重要で、頭囲測定が行われる意義がお分かりになると思います。 この乳児の時期における脳の成長はすさまじく、この時期に脳へのいかなるダメージもあってはならないのです。
 最後に、どうしてもティーンエージャーのオートバイ事故について書かねばなりません。 どうしてこの事故後、特に重傷になるかというと、回転の力が頭部に加わるからです。 すなわち脳の深部にまで、ギザギザな力が加わり、神経繊維を断列させたり、出血が起きるからです。 治療し生命を取りとめたにしても、脳の萎縮を起こしてしまうため、知能に対する影響は言わずもがなのことなのです。 脳について知れば知るほどいとしくなるものですが、その発達期に外傷によって損傷させないように、いとしんでほしいものです。

(下地武義)

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