成人病
    ◇糖尿病◇
    糖尿病の眼科的合併症 糖尿病網膜症や血管新生緑内障

     眼科医が取り扱う領域は狭いけれども、眼局所には全身疾患にからんださまざまな障害が表れて くることが少なくない。その最たるものが糖尿病である。一般に糖尿病網膜症に関してはよく知ら れているが、糖尿病に起因する眼傷害は、網膜に限らず眼科医が取り扱うほとんどすべての領域に 表れる。
     私が神戸市立病院に勤務していたころの忘れがたい糖尿病患者の一人を紹介しよう。かなり進行し た増殖型といわれる糖尿病網膜症を抱えており、レーザーによる治療を受けた形跡はあるが、一眼は すでに広範に牽引性網膜剥離を起こしていて、その場で手術室に送り込むことになった。硝子体手術 とよばれる手術で、網膜を牽引する組織をはぎとり網膜を本来の位置に戻す厄介な術式である。
     年齢は若く四十代後半であるにもかかわらず、水晶体に白濁がみられ、糖尿病性白内障とみなし て白内障手術も同時に行った。経過は術者の私自身が驚くほど良く、喜々として退院していったも のの、対側眼もまもなく悪化し同様の手術を行うことになった。この時も幸いにして順調な経過を 取ったものの、腎機能障害や末梢神経障害が表れてくるとともに、いくつもの眼障害が重なって表 れてくるようになった。
     角膜にちいさな傷が入りやすく涙目がちになり、虹彩が萎縮して色が悪くる。瞳は小さくてあま り開かなくなる。視神経の色も血液の流れの悪さを反映して白っぽく萎縮していき、視力だけでな く視野(見える範囲)も狭まっていく。生きることに真摯で、人あたりもさわやかな紳士。糖尿病 治療に対する気構えもしっかりしていて、なんとしても治したいと思っていた患者ではあったが実 効的な視機能は衰えていくばかり。
     県立病院に赴任してしばらくたった夏の一日、懐かしい声に顔をあげてみればくだんの人。遠く 神戸から診察を受けにやってきたという。眼科医を長年続けていると、私にも慕って来てくれる患 者の一人や二人はできるものだが、この時ほど医師としての誇りを強く意識したことはない。ただ、 視機能に関する予後(将来)がそれほど期待できるものではないことがわかっているだけに、喜ん でばかりもいられない。
     幸いこの患者さんにはみられなかったけれども、糖尿病患者では 血管新生緑内障のように対処のしにくい緑内障をおこしてくること もあり、外眼筋マヒから眼球運動障害をおこすこともある。また、 細菌に対する抵抗力が弱まり、ものもらいのたぐいができやすくな ることもあろう。このように眼科医が取り扱うほとんどすべての領 域に糖尿病にからんだ病変が表れうる。予防がかなうならそれにこ したことはないけれども、糖尿病に対する内科医と眼科医との二人 三脚の戦いはこれからも続く。
新城 光宏