■琉球新報99年7月2日付夕刊に掲載 

肺がんの遺伝子治療とは

問い  五十五歳の妻。全身にけん怠感があったため、近くの病院を受診しました。精密検査の結果は肺の腺(せん)がんで、進行度はVB期ということでした。抗がん剤の治療を三回にわたり受けたのですが、効果が見られないため、現在、治療を中断しています。肺がんの遺伝子治療というのをニュースで知りましたが、この治療法について教えてください。

 (男性) 

<答えるドクター>
石川清司(国立療養所沖縄病院) ・・・・・・・・・・・・・・・・

まだ臨床研究の段階/過度に期待せず十分な情報を
答え
 肺がんに対する遺伝子治療は、日本では岡山大学医学部第一外科学講座でスタートしました。私の出身の講座で、遺伝子治療に関して連携を保っていますので、簡単に解説いたします。
 がんの遺伝子治療は臨床研究の段階です。過度の期待は禁物です。臨床研究がスタートしたばかりで、正確な治療の効果に関しては評価を下す段階ではありません。また、治療手技も今後工夫が重ねられ、変化していくものと思われます。
 がん細胞に見られる遺伝子の異常に「がん抑制遺伝子」の異常があります。がん抑制遺伝子は数種類あり、正常な細胞ががんになるのを防ぐ役割を果たしています。とりわけ、P53遺伝子と呼ばれるがん抑制遺伝子の異常は、大腸がんや肺がんで多く見られます。正常なP53遺伝子は細胞が無制限に増えるのを抑え、しかも遺伝子に異常を生じたがん細胞に対しては消滅するよう指令を出します。
 正常なP53遺伝子をがん細胞に運び込む方法は、幼児の風邪をおこすウイルスの一つを運び屋にしたてます。ウイルスに正常なP53遺伝子を組み込んで、これをがんに直接注射します。
 ですから治療のためには、気管支鏡で見ながら注射する方法と、CTというレントゲンの透視下に注射する方法があります。
 適応判定の基準は次の通りです。@非小細胞肺がん(扁平=へんぺい=上皮がん、腺がん、大細胞がん)であるA手術により切除不可能、かつ抗がん剤や放射線治療が無効であったBがんの病巣へ直接注入が可能であるCがん細胞のP53遺伝子の異常があるD症状があっても歩行可能か、ベッドにいるのが一日に半分以下であるE正常な骨髄機能、肝機能、腎(じん)機能を保っている。
 全身状態を含めた諸検査の結果から、遺伝子治療を受けることが適切であるか否かが総合的に判断されます。
 この遺伝子治療は米国食品医薬品局(FDA)により安全性が認められ、ヒトへの使用が許可されています。発熱はほぼ必ずありますが、重度の副作用は報告されていません。
 現在、肺がんの治療は手術、化学療法(抗がん剤)、放射線療法、レーザー照射とその組み合わせにより、個々人に最も適切と判断される手段が選ばれます。遺伝子治療も近い将来、一つの選択肢になるものと考えられます。
 遺伝子治療の対象になるかどうかの判断に関しては、主治医の先生とよく相談してください。最後になりましたが、あくまでも臨床研究の段階ですので、十分な情報と納得のいく説明、ご本人の同意のもとに行われる治療です。


<健康相談室>メニューヘ