■琉球新報98年5月15日付夕刊に掲載 

字を書くと手が震える

問い  三十代の後半から、人前で字を書くと手が震えるようになりました。自分の名前や住所を書くのさえ手や肩に力が入ってしまいます。他人の前でも、家族の前でも震えます。冬になると手全体がじんじんとしびれたようになりますが、何か関係あるのでしょうか。整形外科では「筋力の衰えで神経が圧迫されているので筋力をつけなさい」と言われました。人前でさらさらと名前を書けるようになりたいので、どうすればよいのか教えてください。

 (44歳・女性) 

<答えるドクター>
国吉和昌(県立那覇病院神経内科) ・・・・・・・・・・・・・・・・

ジストニアの一種の書痙か/神経内科で薬物治療を
答え
 ご質問の内容を読みますと、字を書く時に「手が震える」「手や肩に力が入る」ということですが、これは「ふるえ」(医学的には振戦といいます)と過剰な筋緊張という「不随意運動」が出て、書字を妨げているように思われます。手の力が保たれているのに思うように字が書けない場合は、その手に不随意運動があるからでしょう。不随意運動とは、聞き慣れない言葉でしょうが、自分の意思に反して出てくる身体の過剰な運動、あるいは過剰な筋緊張です。
 ふるえに注目しますと、振戦を来す一群の病気(病態)が知られています。甲状腺(せん)機能高進症や精神的緊張時に出る指の細かなふるえはよく知られている病態ですが、日常生活に支障になることはありません。本態性振戦、パーキンソン病などの神経疾患に伴う振戦、中毒(薬の副作用)による振戦は、時に粗大なふるえになり、生活の支障になります。
 その中でも本態性振戦は特に多く見られ、ふるえを主訴に来院する患者さんの八―九割はそれです。本態性振戦は、軽い場合は目立たず生活の支障になりませんが、強くなると書字などの手先を使う細かな運動の妨げになることがあります。本態性振戦のふるえの特徴は、安静時は無症状だが動作時(書字、コップを持つ、はしを使う)に震えることで、ふるえ以外には何ら神経系に異常がないことです。
 「手や肩に力が入る」という筋緊張に注目すると、体の一部の筋の過剰な筋緊張を症状とするジストニアという不随意運動があります。これは自分の意思に反して体の一部に過剰な筋緊張が入るため、異常な姿勢(肢位)をとったり、スムーズな運動が妨げられる不随意運動です。それが手に起きる場合、「手のジストニア」といい、特に書字に際してのみ出現する場合、書痙(しょけい)といいます。
 書痙はジストニアの一種で、字を書こうとすると指、手首、腕に異常な緊張が入り、またふるえの要素も加わることがあり、字が書けなくなります。本態性振戦などの振戦性の不随意運動と異なり、書痙は書字以外の手の動作ではほとんど無症状で支障のないことが特徴です。原因は不明ですが、字を多く書く職業(事務系の職業など)の人が多く、職業病的な性質があります。
 ご質問はふるえのほかに異常な筋緊張を伴い、書字が困難になっているようで、後者の書痙ではないかと思います。振戦にしろ、ジストニアにしろ、薬物治療ができ、専門診療科(神経内科)での診察・治療で改善が期待できますので受診をお勧めします。


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